補助金の落とし穴?「賃上げ義務」知らずに申請すると危ない話
「えっ…これって“あとで賃上げ”しないとダメなんですか?」
これは、2025年春にIT導入補助金の申請相談に来られた、八王子市の製造業経営者(従業員15名)の第一声です。
申請書の記入は完了済み。ITツールの選定も終え、見積取得も完了。
「補助金さえ通れば、すぐに発注できる」——そんな段階で、
「この制度は給与支給総額の年平均成長率が条件です」と伝えたとき、彼の表情が止まりました。
——知らなかった。
「補助金って“申請して、採択されれば終わり”だと思っていた」と彼は言いました。
ですが、2025年の補助金制度は変わっています。
今では「申請したら終わり」ではなく、その後3年〜5年にわたって“約束した成果を守れるか”が問われる制度になっています。
この記事では、特に見落とされがちな「賃上げ義務」に焦点をあて、
IT導入補助金/新事業進出補助金などの制度比較と失敗事例を交えながら、
“知らなかった”では済まされない補助金活用の注意点をわかりやすく整理します。
申請したら終わり?ではなく「数年にわたる責任」が課される時代
近年の補助金制度は、採択されても「その後の義務」を果たせなければ支援が無効になる構造に変わっています。
- 給与支給総額の年平均2.5%以上の成長
- 地域最低賃金+30円の上乗せ
- 従業員への計画表明
- 3〜5年にわたる定期報告・フォローアップ
こうした「見えない義務」は、制度によって異なりますが、いずれも未達成なら補助金返還や補助率剥奪につながる重大なリスクです。
制度別 賃上げ要件&未達リスク比較表
制度名 | 賃上げ要件 | 未達リスク | 公募事業者 |
---|---|---|---|
IT導入補助金 | 給与支給総額+年平均1.5〜2.0% | 補助額減額、採択除外 | サービスデザイン推進協議会 |
新事業進出補助金 | 年平均2.5% or 最低賃金成長率以上、最賃+30円 | 補助率優遇取消、返還 | 全国商工会連合会/全国商工会議所 |
業務改善助成金 | 最低賃金+30円以上 | 支給取消、返還 | 厚生労働省 |
ものづくり補助金 | 給与支給総額+年平均1.5〜2.0% | 補助金返還/交付取消 | 全国中小企業団体中央会 |
現場の失敗事例──返還事例と再設計のリアル
事例①:八王子市・機械加工業(従業員12名)
IT導入補助金を活用して工程管理ソフトを導入。
しかし、翌年の給与総額が前年比+1.0%止まりとなり、要件未達に。
結果、補助額の一部が減額され、自己負担が35万円増となりました。
事例②:青梅市・印刷会社(従業員9名)
新事業進出補助金で新規拠点を開設。賃金引上げ計画を社内に周知しておらず、
審査機関より「表明義務違反」に該当し、補助率が4/5→3/4に引き下げられました。
補助金は「人材戦略」とセットで使わなければ危険
「賃上げをどう設計するか」——これは制度対応というより経営デザインの問題です。
私たちは、V-I-Eメソッド(Value/Incentive/Engagement)を活用して、以下を事前設計します:
- Value:どういう成果が報われるべきか(成長・貢献)
- Incentive:給与制度と評価制度の整合性
- Engagement:従業員への表明・納得・定着
補助金で本当に得るべきは“お金”ではなく、自社が変わるきっかけです。
まとめ──補助金制度は「成果連動型」へと変わった
2025年以降、補助金制度は
「採択されるかどうか」より、「実行できるかどうか」が問われる時代へと変わりました。
返還や公表のリスクを避けるために、
まずは「要件を知ること」から始めましょう。